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第5回 コート・ダジュールの宝石ーームール貝を巡る旅

  • Writer: T. OSUMI
    T. OSUMI
  • Nov 25
  • 9 min read

Updated: 2 days ago

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ニースの旧市街を抜けると、視界が開けた。小さな広場。中央に噴水があり、周りをレストランが囲んでいる。どの店の外にもテーブルが用意されていて、人々が地中海の痛いほどの陽光を浴びながら食事を楽しんでいる。


「賑やかね」

「でも、ちょっと騒がしいかな」

二人は広場を通り抜け、再びへ向プロムナード・デ・ザングレにむかった。


海岸沿いのレストラン


プロムナードに戻ると、いくつものレストランが軒を連ねていた。

ターコイズブルーのパラソルが並ぶ店。オレンジ色のテーブルクロスの店。赤と白のストライプのパラソルの店。それぞれに個性があり、洋一は一軒一軒じっくりと見ている。

「どこも同じに見えるけど」美智子が言った。

「いや、微妙に違う」

「何が?」

「雰囲気とか、客層とか」

美智子は笑った。研究者の観察眼は、レストラン選びにも発揮されるらしい。

「じゃあ、どこがいいの?」

洋一が足を止めたのは、白いテーブルクロスにターコイズブルーのランナーが敷かれたテラス席のある店だった。籐の椅子。そして、目の前には遮るものなく地中海が広がっている。


「ここ」

「理由は?」

「海が近い。風通しがいい。それに」洋一は店の奥を見た。「厨房が見える。新鮮な食材を使ってそうだ」

「相変わらず細かいのね」

でも、美智子も同じ店を選んだだろう、と洋一は思った。四十年以上一緒にいれば、好みは似てくる。


ウェイターが近づいてきた。五十代くらいの、日焼けした顔に人懐っこい笑顔の男性。


"Bonjour! Une table pour deux?"

「ウィ、 スィル ヴ プレ (Oui, s'il vous plaît )」洋一が答えた。


ぎこちないフランス語ににっこりと笑顔になったウェイターが

「海が見える席がよろしいですか?」と、流暢な英語に切り替えた。

「ええ、できれば」

「こちらへどうぞ」

案内されたのは、テラスの端のテーブル。目の前は小石のビーチ。その向こうに広がる青い海。白い波が寄せては返し、小石がカラカラと音を立てている。

「最高の席ですね」洋一が言った。

「運が良かったですね。十分前まで埋まっていたんですよ」

ウェイターが笑った。「メニューをお持ちします」


二人きりになると、しばらく黙って海を見ていた。

波の音。遠くで笑う子どもたちの声。ヨットのマストがカタカタと揺れる音。カモメの鳴き声。

「グランビルアイランドを思い出すわ」美智子が言った。

「ああ」

「あの時も、海の見える席だったわね」

「でも、あっちは曇ってた」

「そうね。灰色の空と海」

「でも、あの雰囲気も好きだったな」洋一は言った。「バンクーバーの、あの静かな感じ」

新婚旅行。まだ三十代前半だった二人。ハワイで博士号を取ったばかりの洋一と、沖縄で小さな店を始めたばかりの美智子。グランビルアイランドのサンドバーで食べたムール貝。あれがすべての始まりだった。

「あれから三十年以上経つのね」

「そうだな」

「早いわね」

「ああ」


メニューが運ばれてきた。洋一は丁寧にページをめくる。フランス語と英語の両方で書かれている。

「ムール貝、いくつかあるわよ」美智子が指差した。


Moules marinières(白ワインとニンニク)、Moules à la crème(クリームソース)、Moules provençales(トマトとハーブ)、Moules au curry(カレー風味)。


「マリニエールが基本だな」洋一が言った。「一番シンプルな調理法。素材の味がわかる」

「じゃあ、それとプロヴァンサルを頼んで、シェアする?」

「いいね」

ウェイターが戻ってくると、洋一が注文した。


"Moules marinières et moules provençales, s'il vous plaît."

「Très bien! お飲み物は?」

「ビールを二つ」

「Heineken でよろしいですか?」

「ウィ」

ウェイターがメニューを回収しながら、にこりと笑った。

「良い選択です。うちのムール貝は毎朝、市場から仕入れています。今日のは特に良いですよ」

「産地はどこですか?」洋一が尋ねた。

「ああ、専門家の方ですか?」ウェイターが目を輝かせた。「地中海産です。スペインとの国境に近い、バニュルスという町の養殖場から」

「バニュルス」洋一が繰り返した。"Merci!"


ウェイターが去ると、美智子が言った。

「また質問してる」

「気になったから」

「海洋学者は引退したんでしょ」

「癖だよ」洋一が苦笑した。「でも、これで安心して食べられる」


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鍋の謎


ビールが運ばれてきた。冷たいグラスに注がれた黄金色の液体。細かい泡が立ち上っている。

二人はグラスを合わせた。

「乾杯」

「南仏に」

一口飲むと、喉を冷たさが流れていった。心地よい苦味と、ほのかな麦の香り。

「美味しい」

「歩き疲れた後のビールは最高だな」

海を眺めながら、二人は静かにビールを飲んだ。隣のテーブルでは、若いカップルがワインを飲んでいる。向こうのテーブルでは、三世代の家族が賑やかに食事をしている。


「人間観察、好きね」美智子が言った。

「え?」

「さっきから、周りの人ばかり見てる」

「そんなことないよ」

「嘘。あなたはいつもそう」

洋一は観念して笑った。

「みんな幸せそうに見えるな、と思って」

「そうね」


やがて、厨房の方から湯気が立ち上るのが見えた。白ワインとニンニクの香り。洋一は思わず身を乗り出した。

ウェイターが両手に黒い鍋を持って近づいてくる。丸い形で、両側に取っ手がついている。

「お待たせしました」

テーブルに置かれた二つの鍋。蓋を開けると、湯気と共に香りが一気に広がった。

「わあ」美智子が声を上げた。

鍋の中には、ムール貝がぎっしりと詰まっていた。黒い殻を開いて、ふっくらとしたオレンジ色の身が覗いている。パセリが散らされ、白ワインのソースがたっぷりと絡んでいる。バゲットとフライドポテトが添えられている。

もう一つの鍋も開けられる。こちらはトマトベースで、バジルとニンニクの緑が鮮やかだ。

"Bon appétit!"


ウェイターが去ると、二人はしばらく鍋を眺めていた。

「豪快ね」美智子が言った。

「ああ」

洋一は一つ殻を取り、身を外そうとした。が、殻を開けた瞬間、ソースが手に垂れた。

「あ」

「大丈夫?」美智子がナプキンを渡した。

「慣れてないな」

「ゆっくりでいいのよ」

改めて身を外し、口に運ぶ。


一瞬、時間が止まった。

「......」

「どう?」美智子が尋ねた。

「美味い」洋一は目を閉じた。「バンクーバーのとは、全然違う」

美智子も一つ口に入れた。

「本当。味が濃いわ」

グランビルアイランドのムール貝よりも小ぶりだが、味わいは深い。白ワインとニンニクの風味が身に染み込み、噛むほどに旨味が広がる。塩気は控えめで、ムール貝本来の甘みが際立っている。


「バニュルスか」洋一が呟いた。

「何?」

「産地。地中海の養殖場」

「まだ研究者モード?」

「いや」洋一が笑った。「ただ、美味いと思って」

プロヴァンサルの方は、対照的な味わいだった。トマトの酸味とバジルの香り。ニンニクの効いたソースは、地中海の太陽を思わせる明るさがある。

「こっちも美味しい」

「全然違う料理みたいだな」

バゲットにソースを染み込ませて食べると、また違った美味しさだった。フライドポテトも、ソースにつけながら食べる。


「このお鍋、何て言うのかしら」美智子が使い込まれた黒い鍋を見ながら言った。

「鍋?」

「ほら、ムール貝料理には必ずこれを使うでしょ。フランス語で何て言うのかなって」

洋一も鍋を見た。確かに、特徴的な形だ。

「次にウェイター来たら、聞いてみようか」


二人は黙々とムール貝を食べ続けた。殻を開け、身を外し、口に運ぶ。時々、ビールを飲む。海を見る。また食べる。

沖縄でもハワイでもバンクーバーでもない、南フランスの味。それは、新しい発見であると同時に、どこか懐かしい感じもした。

「美味しいわね」美智子が幸せそうに言った。

「ああ」

「来て良かった」

「本当にな」


鍋が半分ほど空いた頃、ウェイターが様子を見に来た。

「お味はいかがですか?」

「とても美味しいです」洋一が答えた。

「それは良かった」

「一つ聞いてもいいですか」美智子が言った。「この黒い鍋、フランス語で何て言うんですか?」

「ああ、これは"cocotte"ですよ」ウェイターが笑った。「小さな鍋、という意味です。ココット」

「ココット」二人が同時に繰り返した。

「そう。ムール貝料理には必ずこれを使います。伝統的な調理器具なんです」

「なるほど」

「覚えやすいでしょう?」ウェイターがウインクして去っていった。


ウェイターが立ち去ると、洋一が言った。

「明日はどうする?」

「ちょっと待って。チャッピー君に聞いてみる」

「チャッピー君??」

「ChatGptのことよ。・・・、うーん、フライング・プロフェッサーの足跡を辿る・・・」


To be continued…


(注)前回、せっかくAIが洋一と美智子という架空の老夫婦を登場させてくれたので、引き続きこの二人に本場ヨーロッパのムール貝を紹介してもらうことにしました。


南フランスと現地のムール貝の写真を10枚ほどClaudeにアップロードして、グランビルアイランド編に続く、コート・ダジュールの旅をつくってもらいました。


洋一と美智子のキャラクター設定を済ませ、前回と同じトーンで文章量は二倍程度と打ち込んだら、ちょっとした短編小説並みの作品が生成されました。読みやすいので、そのまま掲載してもよかったのですが、今回は私が南フランスで堪能したムール貝の紹介が目的。ということで文章の一部(ムール貝を食べるシーンのみ)を少し訂正したうえで掲載しています。今回のエンディングは、フライング・プロフェッサー(私)との偶然の出逢いを予感させる流れで締めくくっています。


写真はすべて私がニースとマントン(フランスとイタリアの国境近くの小さな町)で撮影したものです。写真を準備し、登場人物の背景や文章のトーン、必ず入れてほしい事柄を入力すると掲載したような文章が生成されていきます。今回は、私自身が謎に思っていたあの黒い鍋の名称を、登場人物に尋ねてもらう設定にしてみました。


ちなみに、最初に生成された文章では、ニース空港から市街地へ向かうシーンの描写で、「左側に地中海が・・・」という箇所がありました。私は実際に何度も行ったことがあるので、Claudeに「そのコースだと地中海は右側では?」と打ち込むと、しばらく検索と沈黙が続き、「申し訳ございません。たしかに右側です・・」との回答。やはり生成型AIに丸投げではなく、いわゆるハルシネーションを見破る人間が必要かな、と実感した瞬間です。あいまいな個所やもやもや感のある個所については、適宜確認を求めるとリアルに近づいていきます。完全に架空の設定にしておくとハルシネーションも気にならないかもしれませんね。


キャラクター設定をした洋一と美智子には、これからもいろんな場面で登場してもらおうと思います。近々、この二人とフライング・プロフェッサー(私)が遭遇する予定です。


 
 
 

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