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第4回 回想グランビルアイランドーームール貝の記憶

  • Writer: T. OSUMI
    T. OSUMI
  • 1 day ago
  • 3 min read
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窓の外に雨粒が滑り落ちていく。リビングのソファに並んで座る洋一と美智子は、テーブルの上に広げたアルバムを眺めていた。


「ああ、これこれ」洋一が指を差したのは、色褪せた写真の中のグランビルアイランドだった。「サンドバーだったかな」


「覚えてるわよ」

美智子は眼鏡の奥の目を細めて微笑んだ。




「あなた、ムール貝にしましょう」


あれは三十年以上も前のこと。新婚旅行でバンクーバーを訪れた二人は、地元の人に勧められてグランビルアイランドへ向かった。パブリック・マーケットの喧騒を抜け、Roger'sチョコレートの甘い香りに誘われながら、二人は赤い壁のサンドバーの前に立った。


「入ってみようか」


洋一が差し出した手を、美智子は握り返した。

店内は木の温もりに満ちていた。窓から差し込む柔らかな光が、テーブルとテーブルの間を踊っている。二人は窓際の席に案内された。


「ムール貝が名物なんだって」メニューを見ながら洋一が言った。

「Mussel Mania?」美智子が笑った。「マニアって、面白い名前ね」


運ばれてきたのは、グランビルアイランドブリューイングのロゴが入った銀色のバケツに溢れんばかりのムール貝だった。湯気と共に立ち上る白ワインとガーリックの香り。添えられたフライドポテトと地元のクラフトビール。


「うわ、すごい量」

洋一が殻を開けると、ふっくらとした身が姿を現した。一口頬張って、二人は顔を見合わせた。

「美味しい」

同時に言って、また笑った。


窓の外では、マーケットを行き交う人々。芸術家のアトリエから聞こえる音楽。水辺に停泊するボートの帆が風に揺れている。


「ここ、好きだなあ」美智子がぽつりと言った。「時間がゆっくり流れてる感じがする」

「また来たいなあ」洋一がビールを傾けながら答えた。「二人で」


「結局、あれ以来行けてないわね」美智子が言った。

「そうだな」洋一は写真の中の若い自分たちを見つめた。「でも、あの味は忘れてないよ」

「ムール貝の?」

「それもだけど」洋一は妻の手を取った。「あの日の、全部が」


雨はまだ降り続いている。でも二人の心は、遠い昔の晴れた日の、潮風香るグランビルアイランドにあった。銀色のバケツに盛られたムール貝。クラフトビールの琥珀色。そして、これから始まる長い人生への、甘い期待。


「来年こそ、行ってみる?」美智子が言った。

「いいね」洋一が微笑んだ。「サンドバー、まだあるかな」

「きっとあるわよ」


アルバムのページをめくる音だけが、静かなリビングに響いた。


--To be continued




(注)今回はバンクーバーのグランビルアイランドで撮影した写真をClaudeにアップロードし、新婚旅行でこのバーに立ち寄った昔をなつかしく語り合う老夫婦の物語をつくってもらいました。庶民的で値段もリーズナブルなムール貝は私の大好物の料理のひとつです。


バンクーバー市街地からグランビルアイランドにはバスでも行けますが、おすすめはフォールス・クリーク(False Creek)という入り江を巡る小型のフェリーです。短い時間ですが水上からの眺めは格別です。


バンクーバーには国際映画祭や学会参加、ブリティッシュ・コロンビア大学のイベント等で何度も訪問し、その都度地元の人たちにも大人気のグランビルアイランドで食事をとりました。お気に入りの一軒がThe Sand Barです。Claudeに生成してもらった老夫婦のようにバケツ山盛りのムール貝とクラフトビールを懐かしく思い出しています。


当時、私のSNSをみたカナダ留学中の学生から連絡をもらって一緒に食事したバンクーバー市街地にあるRodney’s Oyster Houseもおすすめです。



 
 
 

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